不死身の漢 ~映画・その他ブログ~

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『ジョーカー』よりも過激な映画、『ウォールストリート・ダウン』

「ジョーカー」の画像検索結果

 映画『ジョーカー』を遅まきながら観に行った。劇中で主人公アーサーが、ウォール街の金融マンたちをピストルで射殺したことで、裕福層との格差に苦しむ庶民たちから街の英雄として崇められていく。その描写を見ていて思い出した映画がある。最低映画を作ることに定評(?)があったドイツ人監督、ウーヴェ・ボル(現在は映画を引退)が監督した映画『ウォールストリート・ダウン』だ。

 

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関連画像

『ウォールストリート・ダウン』

2013年 アメリカ・カナダ合作
監督・脚本 ウーヴェ・ボル
撮影  マティアス・ニューマン
主演  ドミニク・パーセル

ストーリー:

リーマン・ショックによる金融危機の最中、ウォール街の証券会社社長スタンクロフトは自社の利益だけを優先し、不良債権を顧客に売りさばく。

現金輸送車の警備員であるジムは、難病を持った妻の為に懸命に働きながらも幸せな家庭を築いていた。だが金融危機が起こり、スタンクロフトのブローカーに勧められて投資していた全財産を失ったばかりか、膨大な借金まで背負わされる。

相談した弁護士や地方検事にも裏切られ、会社に解雇され、遂に妻も希望を失い自殺してしまう。

ウォール街に全てを奪われたジムは金融機関に復讐を誓い、計画を練り始め、そして遂に完全武装でウォール街に乗り込む・・・


映画『ウォールストリート・ダウン』予告編

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 ウォール街が悪役になった時代

 この映画を紹介する前に少し説明する。

 リーマンショックによる世界金融危機が起きた2007年から現在に至るまで、ウォール街の金融機関はアメリカ映画の悪役、憎まれ役の定番となった。マイケル・ムーアやアレックス・ギブニーのドキュメンタリー映画で叩かれまくったのは勿論、劇映画においても『アザー・ガイズ俺たち踊るハイパー刑事!』(2010)、『マージン・コール』(2011)、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)、『マネーショート』(2018)などでウォール街の金融マン達が悪役として描かれた。
 監督のノーランは否定しているが『ダークナイトライジング』(2013)の貧困層による革命がゴッサム(ニューヨークにしか見えない)で起きるというストーリーは、リーマンショックで発生した大規模デモ(「ウォール街を占拠せよ」運動)を連想せずにはいられなかった。
 低予算のビデオスルー映画の映画でも、『ATM』(2012)などが登場する。これはあくどい儲けを得ている金融会社の社員達が、深夜のATMでお金を下ろしている最中に殺人鬼に狙われるという内容だった。


映画『ATM』予告編

 

 こういったウォール街の住人を主役、または悪役にして彼らの罪を暴き、最後は天罰を下すような映画が山ほど作られたわけだが、そういう映画の中での最右翼であろう作品がこの『ウォールストリート・ダウン』である。

 

ボルの撮った”面白い映画”
 主演はドラマ『プリズン・ブレイク』で主人公の兄貴役を演じて有名になったドミニク・パーセル(ウーヴェ・ボルの映画『デス・リベンジ ラストミッション』、『ザ・シューター大統領暗殺』などでも主演をしている)が、ウォール街に鉄槌を下すヒーロー(?)を演じている。

 ボルの低予算映画の数々は、ほぼそのすべてが不評であり、それでも映画を撮り続けることから映画ファンの間では「現代のエド・ウッド」と馬鹿にされながらも愛されてきた。しかしキャリアの後期に入ったころ『ザ・テロリスト』(2009)(原題Rmpage)という映画を監督する。ストーリーはほとんどなく、目的も何もない無職の青年が、ある日自分の住む田舎町で銃を乱射、無差別に人を殺すだけという、凄まじい内容の映画で、これがカルト的な人気が出たことで、ボルはその後、大量殺人をテーマにした映画を次々に監督するようになる。この『ウォールストリート・ダウン』もその一本だ。

 

「ウォールストリート・ダウン」の画像検索結果

 この映画の前半は、病気の妻を持ち警備員として働く主人公が、株のブローカーに騙されて巨額の借金を背負わされるまでを描くのだが、これが非常にスリリングで面白い。ボルの映画といえば全然印象が残らない登場人物による、たるいシーンが続くのが定番だったのだが、本作の登場人物は主人公ジムの妻から、警備員の同僚たち、株のブローカー、悪徳弁護士、そして金融会社の社長に至るまで、それぞれのキャラがちゃんと全員立っている。編集もスピード感があって、ポンポン話が進むので飽きさせないのが良い。
 本作はリーマンショックを背景に、金融危機が人々の生活をどう追い詰めていったのかが描かれていくが、台詞を使って何度も「金融機関がいかに酷い金儲けをしているか」が説明され、背景でもリーマンショックの経緯を解説するニュースが延々と流れているなど、ハッキリ言ってかなりクドイが、説明過剰を通り越して、全編がボルによるアジテーションだと思って観るのが良いだろう。

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 そして主人公が殺人計画の準備を進める中盤は、上半身 裸で部屋で過ごしたり、鏡の前で銃を構えたりと、ちゃんと『タクシードライバー』オマージュも忘れていない。 

 だがこの映画は、殺人計画を実行に移す主人公の行動が、「狂気」ではなく「正義の怒りに基づいた行動」として描かれ、そこが強調される。そこが『タクシードライバー』や今 公開中の『ジョーカー』とは大きく違う点である。そのため後半になると色々困った展開にもなっていく。

 

凄まじい大量虐殺アクション!

 その後半では、主人公はガイ・フォークスのマスク(「ウォール街を占拠せよ」運動が起きた時、大勢がこのマスクを身に着けた。反権力、革命の象徴となっている)をかぶり、ウォール街で銃を乱射するのだが、このシーンが凄まじい。普通、復讐するにしても標的を絞るはずだが、主人公はウォール街の金融マンを本当に無差別に殺すのである。最初にライフルで自分を騙したブローカーの頭を撃ち抜く!(これはまぁわかる)、そして今度はなんと立ち並んでいる複数の金融機関のビルに銃口を向けて、窓から顔が見えた人間達を片っ端から撃ち殺す!そして自分を破滅させた金融会社に直接乗り込み、銃を乱射!手榴弾まで使って、中にいる人間を皆殺しにする!  

 「ウォールストリート・ダウン」の画像検索結果

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手榴弾で吹き飛ばされる金融機関の人々、もちろん全員無抵抗。この間、ずっとカッコいいBGMが鳴っている。

 ・・・とにかく、このシーンはなかなか度肝を抜かれる。凄いのはこの凄まじいシーンが繰り広げられる間、ずっと勇壮なBGMが流れていることである。一応、巨悪に対して復讐してるわけなので、このシーンは全編「正義の鉄槌だぜ、イエー!」な感じで演出されている。

 よく考えなくとも虐殺なのだが、戦闘シーンのように演出されているところが凄い、殆ど『コマンドー』状態である(ちなみに殺される金融マンのほうは全員丸腰で無抵抗です、当たり前だが)。いま世間を騒がせている『ジョーカー』でさえ、最後の大破壊には悲劇性が込められていたが、この映画にそんなものは無い。正直「殺すまですることはないんじゃないかな、うん」みたいな気持ちにはなるのだが、爽やかなまでに「正義」として描かれる大量殺人シーンを前に、そんなことを考えるのは野暮なのかもしれない。

 では大量殺人に及ぶ主人公の行動を、監督のボルは「狂気」だと思っていないのか?というと、やはりそこは自覚的である。主人公のジムが、マスクをかぶって金融会社のビルに乗り込む。そしてエレベーターに乗るのだが、その時エレベーターの中で直立不動で立ち続ける彼を、カメラは横から映し続ける。マスクで顔は見えないが、この印象的なシーンは明らかに主人公から滲み出す狂気を意図的に映そうという狙いを感じる。そのうえでこの行動を「完全に正義です」と捉えるところが、ボルの凄まじいところである。

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印象的なエレベーターのカット。こういういい意味で記憶に残るカットがボル映画にあるというのも驚き。

 

 そしてクライマックスは悪の親玉である金融会社の社長と一騎打ちするのだが・・・一応、ネタバレは避ける。とりあえず「ここまで都合の良いクライマックスで良いの?」と言いたくなるくらい、都合の良い結末を迎える。とりあえずこのラストシーンを見てて思うのは、ボルがやりたかったのは『パニッシャー』のような映画であるとよくわかる。

 『ジョーカー』でトッド・フィリップスは、70年代のニューシネマを思わせるような善悪が決められない灰色のクライマックスを見せた。ジョーカーをヒーローと捉えるかヴィランと捉えるかは曖昧である。だが『ウォールストリート・ダウン』においてウーヴェ・ボルは80、90年代のアクション映画のような爽やかで堂々としたクライマックスを見せる。主人公は勿論100%正義のヒーローである(いや、俺がそう言ってんじゃなくてそう描かれてるだけだから)

 『ジョーカー』同様、この『ウォールストリート・ダウン』も、『タクシードライバー』や『狼よさらば』などの70年代の骨太な作品達にオマージュが捧げられた映画ではあるが、描き方の豪快さ(大雑把ともいう)において『ウォールストリート・ダウン』のほうが明らかに上・・・のような気がするような、しないような。

 

正直に言って、ちょっと爽快でした。

 

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ちなみに『ターミネーター2』のエドワード・ファーロングも、同僚のスゲーいいヤツ役として出演している。

 

追記:ボルの作品で、この映画よりもさらに過激なのが『ザ・テロリスト』である。ボルは街中で大量殺人ができるゲーム『ポスタル』を映画化しているが、その映画版ポスタルよりもポスタルしているのがこの映画だ。無気力な若者がある日、本当に何の理由も無く、銃乱射をして無差別殺人が行うだけの映画で、しかし、観た人によっては「『タクシードライバー」をも超えた」と言わしめた超過激作にして、ボルの最高傑作(傑作と呼んでいいかわからないが)である。こちらも機会があったら感想を書きたい。

 

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 この『タクシードライバー』と『狼よさらば』の二作は、『ジョーカー』と『ウォールストリート・ダウン』の両方に影響を与えているだけでなく、”孤独な男が銃を使って何かしようとする映画 ”の大半がこの二作の影響下にあると言って良い。