『ブレードランナー ブラックアウト 2022』
2017年 日米合作
監督・脚本:渡辺信一郎
キャラクターデザイン・作画監督:村瀬修功
主演:松田健一郎、青葉市子
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ハードボイルド好きの渡辺監督。
『ブレードランナー ブラックアウト 2022』(以下『ブレラン2022』)は、今年の10月に公開される『ブレードランナー 2029』の前日譚にあたる短編アニメである。現在Sony pcturesのyou tubeチャンネルで公開されている。
監督は『カウボーイ・ビパップ』などで知られる渡辺信一郎。日本のアニメ監督が選ばれた理由は『ブレードランナー』で描かれる未来都市が大阪がモデルになっているからだと思うが、その『ブレードランナー』に影響を受けただろう『マトリックス』のアニメ版も渡辺氏は監督している。 その『アニマトリックス』での仕事ぶりも今回の監督起用に繋がったのかもしれない。
今回の『ブレラン2022』は『アニマトリックス』と同じく、映画一作目と二作目を繋ぐ短編アニメとして制作されている。
映像・デザイン面では相変わらず渡辺信一郎監督が大好きな、ハードボイルドでスタイリッシュな雰囲気を全面的に押し出している。
タフでクールな主人公、娼婦の匂いを漂わせるヒロイン、ネオンの輝く都市のカッコよさなど。まぁ、原作の映画自体がSFノワールなのでそれを踏襲しただけとも言えるが、それでも渡辺監督の趣味も多く入っている。
この渡辺氏やはりというか当然というか、犯罪・ギャング映画、フィルムノワールが大好きで、映画秘宝のインタビューでも好きな映画のタイトルをいくつもあげている。
「映画に狂って・・・」というブログにその一覧が載った記事がある。
渡辺信一郎が影響を受けた映画 ( 映画監督 ) - 映画に狂って・・・ - Yahoo!ブログ
渡辺監督はその流れで松田優作と『探偵物語』も好きらしい。確かに渡辺監督の代表作『カウボーイ・ビバップ』の主人公 スパイクはどう見ても松田優作だった。(『探偵物語』を意識したと渡辺監督本人がインタビュー認めたらしい)
まんまじゃねーかよ!
因みに渡辺監督は『ア二マトリックス』で先に挙げた『キッズストーリー』の他に、『ディテクティブ・ストーリー』という、やはり探偵が主役の短編を作っている。そちらは画面が全編モノクロ、ざらついた画面という、映像からストーリーまで渡辺監督の趣味が炸裂した一作だった。
アクションシーンについて
話を戻して『ブレラン2020』についてだが、アクションシーンについても書きたい。女性型レプリカント、トリクシーの華麗な格闘シーンは、非常に緻密でダイナミックな描写になっていて最大の見せ場だ。
特にトリクシーが助走をつけて敵陣に大ジャンプする場面は、体操選手の動きをアニメーションで完全に再現していることに驚かされた。
トリクシーの全てのアクションをアップなしのロングショット(アニメでもそう言うのか?)、長いカットで描いており、複雑な人体の動き・アクションを緻密な作画によって一切ごまかさずに表現している。
最初の円盤投げからの跳馬は、さすがに体操すぎて少し笑ちゃうがそれでも最高に盛り上がる。スタッフロールを見るとリアル系作画の天才、沖浦啓之の名前があったのでこの辺りは彼の仕事ではないかなと思う。沖浦啓之の天才ぶりに関しては、type-r氏のブログのこの記事などがわかりやすい。
ラフ画のようなアニメーション表現
だがこの作品で一番気になったのはアクションシーンではなく、途中に挟まれる回想シーンである。
反乱を起こしたレプリカント達の一人、NEXUS 8型のイギーがかつての戦場を思い出す場面、線が突然荒くなり、まるで鉛筆で書いた下書きがそのまま動き出したかのようなタッチになる。グチャグチャに歪んだ線によって記憶の中の世界であることが強調される印象的なシーンだ。
だがこのシーンは以前も見たことがある、同じく渡辺氏が監督した『ア二マトリックス』内の『キッズストーリー』というエピソードでだ。(この作品はオムニバスであり、渡辺氏はそのうちの二つを担当した。)このストーリーはラフ画のような荒い線による表現が徹底されており、特に主人公の少年が追手から逃亡する場面は、絵の線がグチャグチャに崩壊する強烈なアクションシーンである。今回の『ブレラン』の回想シーンはそれと同じなのだ。
もはや原型をとどめないほどの線の崩壊、インパクト凄すぎ!
『ア二マトリックス』の特典メイキングによれば、このタッチによるアニメーションを渡辺監督に提案したのは作画監督の橋本晋二だったとのこと。彼らはラフに描かれた原画が動画、彩色と進むうちに綺麗に修正されていくのを、むしろ原画の荒いタッチを残したままにできないかと時間をかけて工夫したらしい。
『ブレラン』においても『キッズストーリー』においても、主人公の爆発するほど高ぶった感情を、常識を超えた人物の動きと輪郭線の崩壊によって表現している。同じ手法は『かぐや姫の物語』でも使われていた・・・と、いうよりはこの手法を究極まで追求して全編でやったのが『かぐや姫』だったような気がする。
書きなぐったような絵がそのまま動いていくことによって、人物の感情の爆発がより強調される。
さらに気になってスタッフロールを見ていたら『ブレラン』と『ア二マトリックス』両方の原画スタッフに「大平晋也」の名前があった。
どうやらこのラフ画がそのまま動き出すような独特のタッチは彼の手によるものらしい。
大平晋也 氏は作画マニアの間ではかなり有名な人物だ。彼の描く、人物の線が変幻自在にアクロバティックに動き回る独特の作画には大勢のファンがいる。特に彼の関わった『八犬伝』はマニアの間で語り草になっているようだ。
だが人物の線がダイナミックにデフォルメされる独特の作画は、大本を辿っていくと伝説のアニメーター金田 伊功(かねだ よしのり)にまで遡る。
極端な遠近法によってキャラクターが強調される「金田パース」、キャラクターの動きの中に独特ポーズを挟むことによってアクションをダイナミックに見せる「金田ポーズ」。現在のアニメにおいても幾度となく見たであろう様々な手法を金田氏は70・80年代に作り上げた。
金田伊功が作画した『009』のOP。意識して見るようになると彼の技術が『ブレラン2020』を含む、色んなアニメへと引き継がれているのがわかる。
それは後に『うる星やつら』などで名を馳せる山下将人などのアニメーターに影響を与え、さらにそこから影響を受けた大平晋也、小池健などに引き継がれていった。
人物の体を変幻自在に変形させる金田伊功の大胆な作画は、そこに影響を受けたアニメーター達に引き継がれていく内に、人物の輪郭線まで崩壊させる『キッズストーリー』、『ブレラン2020』の独特のアニメーション表現に繋がっていったのだろうか?
しかし断言はできない。海外のアニメーションや、インディーズアニメなどに同様の手法があってそこから影響を受けた可能性もある。僕はその辺のアニメの技術史に詳しくなく、比較ができないので今後勉強することにする。
(というかこの辺は偉そうに書くと、本当に詳しい人たちから「デタラメ書くな!」と怒られるかもしれない)
以下は作画マニアが編集した金田伊功、山下将人、大平晋也の作画シーンを集めたムービー。
『ブレードランナー ブラックアウト 2022』は、僕がこれまで見てきた渡辺監督の作品、そしてそのアニメ表現を一纏めにしたもの、という印象を強く感じた。
目を見張るような斬新さはないものの、それでも15分の中にカッコいい映像がいっぱい詰まっている。10月下旬に公開される本編の前奏として十分楽しめた。
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